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東京高等裁判所 昭和57年(行ケ)248号 判決

1 請求の原因1ないし3の事実は当事者間に争いがない。

2 そこで、原告主張の審決取消事由の存否について判断する。

(一)(1) 成立に争いのない甲第二号証の一、二、甲第三号証によれば、本願発明は、「クランク状のハンドル本体の自由端部にノブを取付けた自動車用窓ガラス昇降ハンドル」に関するものであつて、ノブ側の軸部については、特許請求の範囲中の「前記ノブに、その取付方向へ延在した軸部」を形成したことを要件とし、かつ、この軸部は、その先端にハンドル本体の突出部の所定個所に形成された肩部と係合して軸方向の荷重を受ける爪部を具えたものであることが認められる。

ところで、「ノブの取付方向へ延在した軸部」という表現は、ノブの軸部がノブの取付方向に延在しているという方向のみを表わすものであつて、軸部の延びる長さとか具体的態様、すなわち、どこからどこまで、どれだけの長さにわたつて延びているのかを規定しているものではない。

原告は、本願発明におけるノブの軸部は、その先端が円筒状突出部の下方に達する程度に長く延びていなければならないとし、本願発明の明細書に「ノブに形成した環状溝(嵌合部)」(第三頁第一六行、第一七行)なる記載があること、及び別紙図面(一)の各図に示されたすべての実施例において、ノブの軸部が長く延在していることを指摘する。

しかしながら、前掲甲第二号証の一、二、甲第三号証によれば、本願発明における「突出部の外周面にて支持せしめられて軸方向に直角な荷重を受ける嵌合部」としての環状溝(例えば、別紙図面(一)第3図の200c)は、本願発明の明細書に「ハンドル本体に形成した円筒状突出部の外面とノブに形成した環状溝(嵌合部)内周面とを係合させることによつて、ノブのぐらつきを防止する。」(第三頁第一五行ないし第一八行)と記載されていることから明らかなように、ノブの嵌合部の内周面(例えば、前記第3図の200b)が円筒状突出部の外面との係合に役立つものであり、また、「ノブ200の環状溝200cへハンドル本体100の突出部100aを嵌入すると、両者は互にガイドされ、」(第五頁第八行ないし第一〇行)と記載されていることから明らかなように、この係合にあたりノブをガイドするのであるから、軸部の外周面と前記内周面(200b)とは同心に延在配置されてさえいれば、環状溝(200c)が形成されているといえるものであつて、右の環状溝ということが、前記内周面(200b)の軸方向の長さと軸部の長さがどのような関係になければならないかということまでも、示すものではない。また、本願発明の明細書の別紙図面(一)の各図に示された実施例において、ノブの軸部が長く円筒状突出部下方に達するまで延在しているものが示されているとしても、本願発明が、その要旨において、原告主張のような軸部の長いものに限定されていない以上、本件において、明細書に記載された実施例から、そのように特定されたものと解することはできない。

一方、成立に争いのない甲第四号証によれば、引用例記載の装置も、「ハンドル組立体、特に自動車の窓制御機構を操作するためのクランクハンドル組立体に関する」(第一欄第一五行ないし第一七行)ものであつて、「プラグ22に連結されるか又はこれと一体に成形されたシヤンク33は、シヤンク本体33よりも直径の少し大きなテーパー状の肩部34を先端に具え」(第二欄第五三行ないし第五六行)たものであり、かつ、このテーパー状肩部34がハンドル本体の肩部と係合しているものであることが認められるから、シヤンク33は、本願発明における軸部に相当し、テーパー状肩部34は本願発明における爪部に相当するものであり、別紙図面(二)第4図からみて、このシヤンク33がノブの取付方向に延在していることは明らかである。

原告は、引用例記載のシヤンク33が軸部であると解されるとしても、ノブの取付方向へ延在した軸部ではなく、本体の肩部がくい込むための凹部にすぎず、このような部分を取付方向へ延在する長い形状のものとすることは事実上考えられないと主張する。

しかしながら、前掲甲第四号証によれば、引用例記載の装置においても、軸部(シヤンク33)とその嵌合部の内周面とは同心に延在配置され、軸部の先端に形成された爪部(テーパー状肩部34)が本体の肩部(ブツシユ24の一端に形成された内側環状肩部26)との接触面で係合しているものであつて、シヤンク33は単に本体の肩部がくい込むための凹部とはいえないのみならず、本願発明がその要旨において原告主張のような軸部の長いものに限定されないことは前述のとおりであるから、引用例記載のシヤンク33と本願発明の軸部とは相違するとして、両者の構成が技術的に同一でないとすることはできない。

したがつて、本願発明と引用例記載の装置とは、ノブの取付方向に延在する軸部を備えた構成のものである点において一致しているというべきである。

(2) 前掲甲第二号証の一、二、甲第三号証によれば、本願発明は、ノブの取付面と垂直に設けられたハンドル本体の円筒状突出部に肩部を形成するものであるが、該肩部を形成する位置については、特許請求の範囲中の「該突出部の所定個所」に形成したことを要件とするものであつて、その所定個所がどの位置であるかについては、特許請求の範囲中に特定されていないことが認められる。

原告は、肩部を形成する「該突出部の所定個所」とは、突出部空洞内の下方位置であると主張する。

しかしながら、原告の右主張は、本願発明におけるノブの軸部は、その先端が突出部の下方に達する程度に長く延びていることを前提として、この軸部の先端に形成した爪部と突出部空洞内の下方に位置する肩部とを係合するというものであるところ、本願発明がその要旨において原告主張のような軸部の長いものに限定されないことは前述のとおりであるから、その前提を欠くばかりでなく、肩部は爪部と係合して軸方向の荷重を受けるものであることは、本願発明の特許請求の範囲の記載から明らかであり、この係合の点からいえば、肩部が突出部の下方位置にある必要はなく、突出部の上下機宜のところでよいが爪部と係合できるようになつていなければならない点で所定個所にある必要が存するにすぎない。もつとも、ノブの交換の容易性からみれば、肩部が突出部の下方位置にあることが望ましいが、本願発明の明細書にはノブの交換の容易性について記載されていないことは原告も認めるところであり、それが原告主張のように引用例記載のノブ取付構造が公知であつたことを意識していなかつたためであるとしても、拒絶理由として引用例が示されているのであるから、明細書に記載すらされていないノブの交換の容易性を理由として、肩部を形成する個所を突出部空洞内の下方位置に限定して解釈することはできない。また、原告は、別紙図面(一)の各図に示された実施例において、肩部が突出部空洞内の下方位置にあることを、その主張の理由とするが、本願発明が、その要旨において、原告の主張する位置に肩部を形成すべきものに限定されない以上、明細書に記載された実施例から、そのように限定されたものと解することはできない。

一方、前掲甲第四号証によれば、引用例記載の装置においては、テーパー状肩部と係合する内側環状肩部26は、ブツシユ24の上方(外方)先端部に形成されていることが認められるが、本願発明における肩部が突出部の任意の位置にあつて爪部と係合できる位置に形成されるものであれば足りる以上、両者は、突出部の所定個所に肩部を形成する構成のものである点において、一致しているというべきである。

(二) 原告は、本願発明は、引用例記載の装置とは構成上相違することに基き、顕著な作用効果を奏するものであると主張するが、原告の右主張は、上述のとおり、構成上相違するものといえないばかりでなく、次に述べる理由により採用することができない。

(1) まず、組立ての容易性については、前掲甲第二号証の一、二、甲第三号証、甲第四号証によれば、引用例記載の装置は、クランクハンドル21、ノブ28、プラグ22の三つの部材から構成されているのに対し、本願発明はハンドル本体とノブから構成されていることが認められる。

しかしながら、本願発明は、ハンドル本体と、一体に成形されたノブとを構成要件とするものでないことは、その特許請求の範囲の記載から明らかであるのみならず、仮に右の構成を要件とするものであるとしても、部材数の違いによる組立て容易性の作用効果は、部材をハンドル本体とノブから構成するものとしたことにより通常予測される範囲をこえる格別のものとは認めることはできないし、引用例記載の装置におけるノブ組立体をハンドル本体に嵌合する取付においては、本願発明と格別相違があるとすることはできない。

(2) 部材製作の容易性については、(1)と同様、本願発明がハンドル本体と、一体に成形されたノブとを構成要件とするものではないのみならず、部材数の違いによる部材製作の容易性の作用効果も格別のものとは認められないし、また、前掲各書証によれば、引用例記載の装置には、ブツシユ24の根元の部分に膨出した形状のボス23が設けられているが、本願発明においても、別紙図面(一)第4図に示された実施例においては、「ノブ200の本体200a下面と当接するような突出部110e」(第七頁第一四行、第一五行)が設けられており、これは引用例記載のボス23と異なるものではないから、本願発明においては、引用例記載の装置に比して特にゆるやかな公差管理で製作することができるとはいえない。

(3) 部品交換の容易性については、原告の主張は、本願発明において、肩部がハンドル本体の突出部の下方位置に形成されるものに限定されることを前提として、ノブの爪部とハンドル本体の肩部との係合がハンドル本体先端の裏面側で行えるとするものであつて、肩部は突出部下方に形成されるものに限定されないことは前述のとおりであるから、その前提を欠き、理由のないことが明らかである。

(三) 前掲甲第二号証の一、二、甲第三号証によれば、本願発明においては、軸部の先端に、ハンドル本体の突出部に設けられる肩部と係合して軸方向の荷重を受ける爪部を形成するものであるが、該爪部の径は、特許請求の範囲中の「前記軸部と同径もしくは小径」のものであることを要件とし、爪部が設けられている軸部がスリツトを有する弾性体であり、ハンドル本体の肩部は弾性を有しない剛体として形成され、この軸部の弾性を利用して肩部と爪部とを嵌合により係合するものであることが認められる。

これに対し、成立に争いのない甲第五号証ないし甲第七号証によれば、周知例1ないし3に記載された装置は、いずれも弾性を利用した肩部と外径を軸部外径と同径もしくは小径とした爪部との嵌合による係合手段を示すものである点において、本願発明と同一であるが、爪部が設けられた挿入部材側が剛体であつて、肩部が設けられた穴部材側が弾性体として形成されている点において本願発明とは異なつていることが認められる。したがつて、原告主張のように、通常の用例に従つて剛体側を肩部と呼称し、弾性体側を爪部と呼称するならば、本願発明においては、中空突出部、換言すれば、穴部材側に肩部があり、軸部、換言すれば、挿入部材側に爪部があるのに対し、周知例1ないし3記載の装置においては、穴部材側に爪部があり、挿入部材側に肩部があるのであるから、本願発明と周知例1ないし3記載の装置とは、肩部と爪部との配置が逆になつているものである。

しかしながら、これらの弾性を利用した肩部と爪部との嵌合による係合手段は、突出している係合部分すなわち突出係合部分と、これを受留めて係合を完成させる部分とから構成されているものとみることができ、前掲甲第二号証の一、二、甲第三号証によれば、本願発明の明細書に従来技術として示された別紙図面(一)第2図のものは、突出係合部分が爪部という名称で軸部(挿入部材)に存在し、受留係合部分が肩部という名称で中空突出部(穴部材)に段部として存在するのに対し、別紙図面(一)のそれ以外の図面では、突出係合部分が肩部という名称で中空突出部(穴部材)に存在し、受留係合部分が爪部という名称で軸部(挿入部材)に凹部として存在し、肩部と爪部としてみるときは、全図面のものが同一であつても、突出係合部分と受留係合部分としてみるときは、第2図のものとそれ以外の図面のものとでは逆になつていることが認められる。

この突出係合部分と受留係合部分との関係を周知例1ないし3記載の装置についてみると、本願発明と同様、突出係合部分は穴部材側に存在し、受留係合部分は挿入部材側に凹部として存在していることが認められる。そうであれば、本願発明と周知例1ないし3記載の装置とは、弾性変形する側は逆になつていても、弾性を利用し嵌合により係合するものとして、突出係合部分と凹部である受留係合部分とからなるという構成からみれば、係合方式が格別異なつているということはできない。

要するに、突出係合部分に対する受留係合部分として凹部を利用することは、周知例1ないし3記載の装置にみられるように、本願発明の出願前周知であるから、引用例記載の装置における突出係合部分を挿入部材(軸部)でなく、穴部材(中空突出部)に移し、受留係合部分を中空突出部から軸部に凹部として移せば、この凹部は爪部となるものであつて、このような構成とすることに格別の工夫を要するものとは認められない。

なお、前掲甲第四号証によれば、引用例記載の装置におけるノブの軸部はシヤンク33であり、別紙図面(二)第4図には、シヤンク33の長さは、内側環状肩部26と同じ長さのものが示されているが、この軸部を延長して受留係合部分としての凹部を形成することに格別の困難は認められない。

したがつて、爪部の外径を軸部外径と同径もしくは小径とした周知例1ないし3記載の装置を引用例記載の装置における該当部分に転用することは、当業者にとつてきわめて容易にしうることというべきである。

(四) 以上の理由により、本願発明は引用例記載の装置から容易に発明できるものであるとした審決の判断は正当であつて、審決には原告主張のような違法はない。

3 よつて、審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとする。

〔編註その一〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

クランク状のハンドル本体の自由端部にノブを取付けた自動車用窓ガラス昇降ハンドルにおいて、前記本体に、前記取付面と垂直に円筒状の突出部と、該突出部の所定個所に肩部とをそれぞれ形成し、前記ノブに、その取付方向へ延在した軸部と、該軸部の先端に前記肩部と係合して軸方向の荷重を受ける前記軸部と同径もしくは小径の爪部と、該爪部の外周径を小さくする方向へ撓ませうる軸方向のスリツトと、前記突出部の外周面にて支持せしめられて軸方向に直角な荷重を受ける嵌合部とをそれぞれ形成したことを特徴とする自動車用窓ガラス昇降ハンドル。

〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。

別紙

(一)

<省略>

<省略>

<省略>

(二)

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